HTLV-1質問箱
HTLV-1のウイルス学
HTLV-1ってどんなウイルス?
レトロウイルス、プロウイルスとは?
感染細胞率(ウイルスロード)とは?
HTLV-1に感染すると
どんな病気になる?
感染者は全員病気になる?
病気になる確率はどのくらい?
病気の予防法はある?
一度感染したらずっと感染したまま?
いつ感染したかを知ることはできる?
HTLV-1感染によっておこる病気
ATL(成人T細胞性白血病)
ATLってどんな病気?
どんな治療をするの?(ATL)
治療の流れは?(ATL)
化学療法とは?
骨髄移植とは?
医療費はどのくらいかかる?(ATL)
HAM(HTLV-1関連脊髄症)
HAMってどんな病気?
どんな治療をするの?(HAM)
治療の流れは?(HAM)
インターフェロンとは?
ステロイドとは?
AZTとは?
医療費はどのくらいかかる?(HAM)
HU(HTLV-1ぶどう膜炎)
HTLV-1感染の検査
スクリーニング検査とは?
検査を受けた方がよいのはどんな時?
どこで検査してもらえる?
献血で調べてもらえる?
昔に献血した時は何も言われなかったのに、今回は感染の通知が来ました
HTLV-1感染を防ぐ正しい知識
日常生活編
日常生活ではほとんど感染しないってホント?
洗濯やお風呂、食器などは大丈夫?
カミソリ、ハブラシは共用しても大丈夫?
母子感染編
母子感染とは?
母乳さえあげなければ絶対に感染しない?
子供を作らないほうがいい?
子供の感染を調べるには
性行為感染(夫婦間感染)編
輸血感染編
輸血感染とは?
日本で輸血したけど大丈夫?
海外で輸血したけど大丈夫?
その他
レトロウイルス、プロウイルスとは?
レトロウイルスとは、RNAウイルス(ウイスル粒子の殻の中に、遺伝子の本体としてDNAではなくRNAを持つウイルス)の一種です。
しかし他のRNAウイルスと違ってレトロウイルスに特徴的なことは、感染の標的となる宿主細胞(HTLV-1やHIVではヒトTリンパ球)に感染後、そのウイルスRNAは細胞内でDNAに変換され(この過程を「逆転写=reverse transcription」と言います)、宿主細胞の染色体(ゲノム)DNAの中に組み込まれるということです。

このようにDNAに変換されて宿主染色体に組み込まれたウイルスの遺伝子を「プロウイルス」と呼びます。
一度宿主染色体に組み込まれたウイルスDNAはその後、二度と染色体から抜け落ちることはありません。
宿主染色体上のウイルスDNAから、宿主の遺伝子と同じようにRNAが作られて、それが子孫のウイルスの遺伝子となったり、ウイルスの殻などを作る蛋白質合成のもととなったりします。

感染細胞率(ウイルスロード)とは?
ヒトのTリンパ球にHTLV-1ウイルスが感染すると、1細胞あたり1個のプロウイルスが組み込まれます。つまりプロウイルスの数=感染細胞数となります。
したがって、感染者の方の血液中の全リンパ球数とプロウイルス数を調べると、全リンパ球中のHTLV-1感染細胞の含有率が求められます。
無症状のHTLV-1感染者(キャリア)の末梢血中では、全リンパ球のうち約1~3 %位が感染細胞である(つまりリンパ球100個分を調べると1~3分子のプロウイルスDNAが検出できる)事が知られています。
この感染細胞の割合(感染細胞率あるいは「ウイルスロード」)については、各HTLV-1関連疾患とのおおまかな相関が解ってきています。
たとえば普通の何の症状も無いキャリアの場合では上記のように1~3 %ですが、HTLV-1キャリアの一部に発症するぶどう膜炎 (HTLV-1 uveitis、HU) を持つ患者の方では5 %前後、慢性の神経麻痺を症状とするHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated Myelopathy, HAM)の患者の方で10 %以上の例が多い事が示されています。
高齢者に多い糞線虫(経皮感染をする寄生虫)との重感染者では感染細胞の割合が増えており、40 %以上と言う例もあります。
しかし感染細胞率には個人差もあり、感染率がキャリアの範囲を超えていても、健康に過ごされている感染者の方もある程度存在します。
ATLってどんな病気?
HTLV-1感染者におこるHTLV-1が感染したTリンパ球による白血病・リンパ腫のことを言います。
HTLV-1感染者の多い、九州・沖縄地方に多い病気です。
全身のリンパ節が腫れたり、皮膚が赤くなったり、肝臓がはれたりします。男性がやや多く、30歳を過ぎて発症し、平均発症年齢は60歳です。家族内に同じ病気の人がいることもあります。
ATLかどうかは、血液の中にATL細胞(はなびら細胞ーはなびらのように見える細胞ー)があって、更に増殖HTLV-1感染細胞のクローナリティ(単一性:1種類の感染細胞による増殖)の検査が陽性であるかどうかで最終的に判断します。
またATLは急性型、慢性型、くすぶり型、リンパ腫型、急性転化型に分類され、経過は急激なものからゆっくり進行するものまでさまざまです。

HAMってどんな病気?
HAMはHTLV-1関連脊髄症の略称です。
HTLV-1感染者におこる、徐々に進行する両下肢の筋肉が固く緊張した感じの不完全な麻痺が症状の中心となる病気です。
頻尿や頑固な便秘、軽度の感覚障害、発汗障害を伴い、慢性に経過します。主症状の歩行障害は軽度の引きずり歩行から、足の突っ張りが強くなると内反尖足(つま先が内側に反り返る様なかたち)となり、進行すると下肢筋力の低下とともに車椅子になる場合があります。
排尿障害は夜間の尿回数が増え、日中も2時間以内の頻尿、尿を出しても残った感じのある残尿感、尿漏れ(尿失禁)などがおこります。
診断は特徴的な症状と経過に加え、血清及び髄液の抗HTLV-1抗体が陽性であること、他の原因を除外することにより総合的になされます。
どんな治療をするの?(HAM)
HAMの活動性(病気の進行強度)検査のため、髄液検査で抗HTLV-1抗体、髄液IgG(髄膜炎、脳炎などで増える物質)、ネオプテリン(感染症や自己免疫疾患などで体内で増える物質)の測定および末梢血HTLV-1ウイルス量測定をします。
通常、脊椎MRIは正常なので頭部を含めたMRIの検査を受け、また合併症の検査で眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科を受診します。
病気が急性進行期と判断された場合はステロイドパルス療法やαインターフェロン療法を行います。
治療としてステロイドパルス療法を実施した場合は、メチルプレドニン点滴 1g/日投与を3日間行うと同時に、ステロイド内服1mg/体重Kg投与を行います。その後ステロイド内服を減量して5-10mg/日の維持量にします。
この治療の行程は入院で約1ヶ月かかります。
またαインターフェロンを用いた療法では、αインターフェロンを毎日30日間筋肉注射すると同時にステロイドの内服を併用します。
退院後、αインターフェロンを週2~3回に減量して最低4ヶ月通院により投与します。
HAMは慢性に経過するため、治療は生涯続きます。
最初の治療後、改善がみられなかった患者の方では、リハビリテーションか筋弛緩剤のみの治療法を選択することもできます。
中には便秘を改善する為の下剤だけを使用している方もいます。
治療の流れは?(HAM)
HAMの疑いがあれば、まず神経内科を受診し診断を確定することが必要です。
その上でHAM単独かHAMに伴う合併症(涙や唾液が出にくい、皮膚乾燥、手足のしびれなどを認めるシェーグレン症候群、肺障害、関節症、ぶどう膜炎、成人T細胞白血病ATLなど)があるかどうかの精密検査を受けます。
また末梢血のHTLV-1プロウイルス量、髄液の抗HTLV-1抗体価やネオプテリンの測定を受け、病状の現在の活動性を判定します。
HAMによる排尿障害は神経が原因によるものですが、その結果として膀胱がゆるんでいるのか、膀胱が突っ張っているのか、膀胱の緊張が協調不全を起こしているのかを泌尿器科で検査してもらい、それぞれの原因に適した薬を使用します。
これらを総合的に判断し、治療方針を決定します。
治療にはステロイドホルモンやαインターフェロンが有効です。
しかし、病気の活動性が低くあまり進行がみられない場合には、ビタミンC大量療法やサラゾピリン・エリスロマイシン少量療法など、よりマイルドな免疫調整作用を期待した治療がよいこともあります。
また、下肢の筋力低下や関節が痙性で拘縮しないようにリハビリテーションも大切です。
HAMは難治性で、治療後でも約5割の方で症状が再燃進行しますので、そのつど福祉制度や福祉器具を利用し、日常生活動作を維持向上させていく必要があります。
インターフェロンとは?
インターフェロンという言葉は、interfere(妨害する、相互干渉する)という英語から作られました。
ウイルスが侵入している細胞に、別のウイルスが侵入すると、お互いのウイルスの増殖を抑える物質が作られる現象がみられ、この物質がインターフェロンと名づけられました。
インターフェロンの作用にはウイルスの増殖を抑える作用、細胞の増殖を抑える作用、免疫を調節する作用があります。
ウイルス増殖抑制作用でC型ウイルス肝炎の治療に用いられ、細胞増殖を抑える作用から白血病、多発性骨髄腫、腎臓癌、菌状臭肉腫などの癌治療に使われています。
インターフェロンにはいくつか種類があり、HAMやC型慢性肝炎に対してはαインターフェロンを、多発性硬化症にはβインターフェロン、ATLにはγインターフェロンが用いられています。
副作用として発熱、脱毛、白血球減少、抑うつなどがあります。
カミソリ、ハブラシは共用しても大丈夫?
ほぼ心配いりませんが、避けた方が安全です。
カミソリやハブラシなどは、使い方によって血液などが付着することがあります。
それを他の人が使用することで生きた感染細胞が体内に入る可能性は否定出来ませんが、洗ってあれば危険は低いと考えられます。
生きた細胞というのは大変弱いもので、水道水で洗っただけでも容易に死んでしまいますので、HTLV-1の感染はまず起こらないとものと考えます。
ただ、これは血液などを介して人から人へ感染する病気全体に当てはまるものではなく、水洗いだけでは感染を防げないものも有ると考えられます。
また洗いが不十分だった場合は感染の危険があるとも言えます。
したがって、感染症一般に対する心構えとして、このような器具の共用は避けたほうが安全だと言えます。
母子感染とは?
HTLV-1に感染したお母さんから生まれた子供さんへの感染をいいます。
そのほとんどが母乳を与えることによって引き起こされると考えられています。
ただし、母乳を与えていても約80 %の子供さんは感染しないようです。
また母乳をやめて人工乳で育てると97 %の子供さんが感染せずに成長することができると言われています。
更に母乳に手を加える(一度凍結させたり、熱を加える)ことで感染を防ぐ方法も知られていますが、一般家庭でこれを忠実に実行するにはかなりの労力がいるようです。
HTLV-1に感染したお母さんが母乳による育児を希望される場合は、HTLV-1に詳しい医師にご相談されることをお勧めします。
感染が判明したら性行為は避けた方がいい?
HTLV-1感染によって病気になる確率はもともとあまり高くはありません。
一番発症率の高いATL(成人T細胞性白血病)でも全体の5 %程度です。
しかも成人してから感染した人で、ATLを発症した人はこれまで確認されていません。
HAM(HTLV-1関連脊髄症)やHU(HTLV-1関連ぶどう膜炎)は成人してからの感染でも発症が確認されていますが、発症率自体がATLの数分の一程度と低く、またHAMに関しては性行為によるHTLV-1感染が原因で発症した人はほとんどいないのではないかと考えられています。
したがって、あまり過剰反応を起こす必要はありません。
パートナーと、場合によってはHTLV-1に詳しい医師を交えてよく話し合ってその時々の人生設計を楽しんでください。
どうしても気になる場合はコンドームの使用でほぼ感染を防御できます。




